文学の森

書庫 書き溜めた短編

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月の裏の住人 12

    十二
 人間は、増えすぎた。これから、間引きがある。地球のために。この星は、人間とそれ以外の生命が共存する場所でなくてはならない。動物に天敵があるように、人間にもそれは存在する。
 人間はひとつになる時が来ている。性も肌の色も宗教も国境も取り払い、ひとつにならなければならない。
 さあ、考えなさい。人口増加を防ぐためには、何を排除するべきかを。
 月の裏の住人は、社交的な色合いで身体を光らせた。

                 おわり


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月の裏の住人 11

     十一
 仄暗いトンネルには何かおぞましいものが無数にいるように感じられた。
「ねえ、本当に安部と二宮は現れるのかな?」
 研が恐る恐る口にした時、目の前に小さな人影が現れた。それは、研と同じ年くらいの女の子で、「私は十年も生きていない」と泣いた。体中、炎で焼かれたような声で「熱い。熱い」と言った。
 幽霊なの?と三人は顔を見合わせた。
 次に片目の老人が軍服姿で現れた。トンネルの上から宙吊りで。ブロックの隙間から手が伸びたり、苦悶の声が漏れた。出口が見えぬほど、光は遠くにあった。
「よう!」
 目の前に男が二人立っていた。安部と二宮だった。
「そこの小さな男の子には悪いが、武司、克雄、三人揃って死んでもらうぜ」
 手には赤いロープを持っていた。
 三人は凍りついた。安部と二宮を覆う黒い影が、暗闇の中にはっきりと見えたからだ。
「ああ、見えないの?二人とも・・・・ああ・・・二宮って男の子のほうの顔から、そのにきびから、蛇が出ている。白い小さな蛇が、たくさん」
 研は腰を抜かして、座り込んだ。
「そ、そ、それに、オジサンの顔はドンドン横に広がっている。ああ・・・黒い影が顔を横に引っ張っているんだ!ねえ、二人とも、見えないの?それに、ここまで来るのに幽霊を見なかったの?」
「幽霊?おいっ、坊主、よっぽど怖いんだな。そんなものいるか!ネズミすらいなかったぞ!」
 安部は馬鹿にするように高らかに笑った。二宮も人を殺せる喜びに満ち溢れていた。
 克雄は、武司と研にそっと耳打ちする。
「いいかい、卑弥呼は二人に会っても、無視して、そのまま進めと言った。このまま素通りするぞ」
 武司と研は、小さく頷いた。
 三人はそのまま歩いていった。遠くに人影が見えた。もしかしたら、卑弥呼かな?と研は小声で言った。
「おいっ!無視することはできないぞ!」
 安部は一歩踏み出そうとしたが、身体が動かない。二宮もどうように、硬直したまま、「関節が痛いっ!顔が焼けるように熱い!」と泣き叫んだ。
「お、おいっ!待て!な、なんで身体が動かないんだ!おいっ!助けろ!」
 安部は泣き叫ぶ。
 三人は、歩く。光の先に人影がある。そこを目指す。
「研?どうしたの?こんな壊れそうなトンネルで」
 心配そうに研の母親が立っていた。
「この中は涼しいはね。気持ちいい。あらっ、お友達も一緒なのね。さあ、あなたたちは、先に出て、私と研は中で少し涼むから」
 克雄に悪寒が走る。まさか、三人目は、研?
「研、急いで出よう!」
 克雄はそう言って、研の小さな手を握り、全速力で走る。武司も咄嗟に駆け出す。
「あらっ!なんで逃げるの?研!止まれ!この野郎!」
 断末魔の叫びのごとく、後ろで悲鳴が聞こえた。トンネルを抜けると同時に、トンネルが壊れ始めたのである。振り返ると、研の母親が、崩れ落ちる音を上回る奇声で叫んでいた。
「ちきしょう!夢で見たんだよ!ここで憎い研を殺す夢をねっ!あたしゃ、女だけが欲しかったんだ!貴様、よくも生まれてきやがったな~!」
 驚く研を武司は抱き締める。母親が見えないようにきつく抱き締めて。崩れ落ちる音の中に、安部や二宮の悲鳴も混じっていた。

 
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月の裏の住人10

     十
 卑弥呼は言った。もし、自殺者を出したくないのなら、安部と二宮を抹殺するべきだと。そうしないと、彼らにより苦しみぬいて死ぬ者が現れると言う。同じ命を消すのなら、その二人を消しなさい、と。卑弥呼は未来が予想できるらしく、安部と二宮により、三名の自殺と見せかけての殺人があるという。
「安部と二宮を消すより、他の三人を消したほうが、人口減少になるんじゃない?」
 そう研は言った。
 克雄は沈んだ顔で、「もうひとり、死者がキチンと用意され、つじつまがあうらしい」と言った。
「誰なんだろうね、武司君」
「校長かな?もう死んだけど」
「きっと、そうだよ」
 研は安心したように笑った。
「これで、苛めで殺される人が、少なくとも三人は救われたことになるね」
「ああ」
 克雄は厳しい目つきで前を見据える。
 目の前には、使われなくなった古いトンネルがある。
「このまま、この中を通過している時に、安部と二宮が現れるんだね。卑弥呼の予言では・・・」
 三人は、卑弥呼の言う通りに行動することにした。勇気が出ない時は、「奴らは悪魔だ。裁かれる必要がある。そのことにより、善良な誰かが助かる。彼らは死ぬのではない。旅立つのだ」と繰り返し言うのである。勇気を奮い立たせるために。


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月の裏の住人9

     九
 地球温暖化のため、年々、台風の規模が大きくなっている。武司は、克雄の家の屋根の上から、近付きつつある台風の気配を感じながら夜空を眺める。克雄は武司苛め事件の全国的な広がりをネットで見ている。校長の死で、結末を迎えたように見えたが、葬式で安部が薄ら笑いをしていたこと、二宮をはじめとしたグループが武司の住む地区へ嫌がらせをしているなどという情報が流され、まだまだ静まりそうにない。ネットという場所は不思議なもので、人のもうひとつの側面を露わにするのである。校長の葬式での安部の笑みは、誰かによって撮られたムービーであったし、二宮の行為は卑劣だと彼の住所まで調べて流出していた。
 まだ続きそうな嵐に武司は、人間の色んな面を見た気がした。
「優しくもあり、怖くもある、それが人間。ひとりに二面性がある場合もある。ひとりが悪魔の場合もある」
 武司は独り言を言う。
「じゃあ、俺の母親は悪魔だな。いや、待てよ、お姉ちゃんには優しいから、良い面もあるのかな?」
 腕組みをして、研は考える。
「ところで、研とお姉ちゃんって、幾つ違い?」
「双子だよ。女の子だけが欲しかったって、いつも言うから」
「そうか・・・我が子なのにね」
 武司が溜息をつくと、卑弥呼が現れた。
「我が子など関係ないわ。親が子供を愛するとは限らないの。研君の母親は、悪魔よ。それもかなり質の悪い。人間は、思い込みがとても強いの。時として、それが人生の障害になることもある」
 研は目を見開いたまま、硬直していた。
「ど、どうしたんだい?研。ああ、初めてだったね、彼女、卑弥呼って言うんだ。ほらっ、教科書に載ってるだろ?見たことない?」
「見たことない。教科書は母親に全部焼かれたから」
「酷いことするな~」
「卑弥呼って、こ、これ、お、女なの?」
「えっ?何言ってるんだい?じゃあ、何に見えるんだ?」
「吊り上った大きな目、細い身体、長い手足、青白い肌、まるでスピルバーグの映画に出てくるエイリアンだ」
「何だって?」
 武司は驚いた顔で、卑弥呼を見た。そこには、確かに長い首の宇宙人らしきものがいた。
「それが、卑弥呼の本当の姿だよ。彼女は武司君の脳に女性に見えるように信号を送っていたんだ」
 克雄がにっこり微笑んで立っていた。
「彼女はね、う~ん、卑弥呼と呼ばせてもらうけど、月の裏側から来たんだよ」
 武司も研も目を丸くして聞いた。
 克雄は続ける。
「驚いただろうけど、やはり宇宙人っていたんだ、と思ったろ?突然現れると、パニックになるよね。だから、彼らはとても長い時間をかけて、僕ら人間にその存在をアピールし続けたんだ。UFOの目撃、宇宙人の映像や映画など、少しずつ。アメリカは、ケネディ暗殺後五十年の二〇一三年に宇宙人が実在すると公表するよ。ケネディは宇宙人とアメリカがコンタクトしていること、そして宇宙人の存在を暴露しようとして、殺されたんだ。アメリカは国家機密を五十年秘守するが、それを超えると公開することにしている。さらにケネディの次の大統領ジョンソンが二〇三九年まで暗殺事件の真相を明かさないという『ウォーレン報告書』の期限が切れた時、宇宙人は完全に姿を現すよ。勿論、今、目の前にいる卑弥呼のように、僕ら人間とコミュニケーションしている宇宙人は世界中にいるよ」
 研は、目玉が飛び出しそうに見開いて、卑弥呼を見た。
「何だか、スケールが大きすぎて、僕のお母さんのことなんて、どうでもよくなるよ」
「そうだな、二宮とか安部とかのレベルじゃないな」
 武司も卑弥呼の姿を凝視する。青白い身体の上を黄色と白の光の筋が流れている。時々、青い小さな光が点滅している。目は巨大な猫の目のようで、深い藍色である。
「もし、あなたたちが、卑弥呼でいいのなら、研君にもそのように見えるようにするけれど」
 卑弥呼は言った。
「今のままでは顔の表情がないから、統一するわね」
 そう言うと、目の前に歴史の教科書で見る通りの女性が現れた。
「これが、卑弥呼か」
 研はまじまじとまた見入る。
「研君、武司君、辛い目にあったわね。研君、耐えられないようなら、施設に行くといい。あの女がいつか心を改めてくれるなんて思わないでね。安部や二宮と同じ、罪の意識はないのだから。それから、何故、自分だけこんな目に会うのだろうとか、自分は他の人と違うのだろうとか、思わないで。あなた達は、自分を生きなさい。醜き者らに心脅かされる必要はないの」
 武司は、口をポカンと開けたまま、研を見る。研もまた武司を見る。
「正直、なんか常識が吹っ飛ぶよ」
 驚いた武司を見て、克雄は力説する。
「そうなんだ、そうなんだよ。人間は増えすぎた。人間の吐く息ですらも温暖化の原因になるんだ。これ以上増えてはいけない。いや、むしろ、減らさなきゃいけないんだ。僕も絶倫帝王も、罪のない心優しい人が亡くなるより、悪魔のような人間が減るべきだと思い、活動しているんだ。快楽殺人をやる奴らなんて、長々と裁判せずに、すぐに殺すべきなんだ。そうは思わないか?」
「でも、法律が・・・」
「指を咥えて見るだけなんて。犯罪者の写真、住所、電話番号は公開されるべきなんだよ。そうして、周りの人間から、冷笑されて、自ら命を断たせるんだ」
「でも、二宮や安部は自殺するかな?」
 武司は頭をひねる。
研も小首を傾げながら、問う。
「虐待している親やした親も公開されるの?」
「残念ながら、事件になった時だけなんだ。動物の扱いが劣悪なペット・ショップは、もう何軒も潰されたけどね。企業などは、見つかりやすいけど、内部告発や地域住民の情報もあるし、だけど、児童虐待は未然に防ぎにくいよね」
「そうなんだ・・・・」
 沈む研に、卑弥呼は微笑む。
「人間は気が付かないだけで、どんどん減らされていく。戦争や災害で。そうしないと、地球は完全に壊れる。もちろん、そうならないようになっているけど・・・アメリカと中国の闘いも始まるでしょう。日本では、中国のマイナスなイメージばかりが報道されるようになる。基地を置きやすくするために。多くの人が犠牲になる。命の危機に晒されて、初めて命の尊さを知るようになるでしょう。すべてを失うことで、気付くことも多いでしょう。二〇〇八年、中国が月へ有人で月面着陸するのを機に闘いは起こる。宇宙に関しては、アメリカはどの国にもひけをとりたくない。日本人は戦争に反対するはず。だから、反対しないように、北朝鮮問題があり、メディアでコントロールしているの。北方領土返還にならないのもそのため。日本は、常にアメリカにとって都合のいい国でなければならないの。アメリカ以外の大国と友好にならぬため、そのようになっている」
「よく分からないや。自分のことに精一杯で」
 研は戦争など想像もできない、といった風に頭を振る。怖いイメージが消え去るように。
「人間は、増えすぎないようになっているんだね」
 武司は、言う。
「そうね、日本は長寿大国になっているけど、エイズが蔓延している国の平均寿命は三十六歳と言われている。人口増加が、地球に負担だ、と見なされれば、哀しいけれど、人間が太刀打ちできない病が流行る。その病を克服すれば、また異なる病が見つかる。砂漠の緑地化などがあるけれど、人口増加を止められないのなら、人間が住める範囲を広げるべきね。私たちの登場で、世界はひとつになるわ。すべてのくだらない差別が本当にくだらないと分かる時が来る。キリスト教は子孫繁栄を阻止させるとして、同性愛を禁止しているけれど、それも自由になる。イエスは、すべての人に平等であった。途中で書き換えられたの。でも、時代が違いすぎる。人口増加を食い止めなければならないの。哀しい現実だけど、地震を起こす装置すらあるわ。死ぬことは怖いことじゃない、ただ旅立つだけだ、と歌われるのもそのため。人間は、動物と人を区別するけど、そうすることにより、何が起きたかしら?」
「毎年、多くの種が絶滅している」
 克雄は俯く。
「そうね、人間は特別では、ないの」




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月の裏の住人8

     八
 予想を遥かに超えた動きがあった。克雄から、今すぐ学校の部室に来て、とメールがあったのだ。
 サイトを見た人達数人が、部室を片付けている。ロッカーの汚物を処理し、悪戯書きが消されようとしていた。
「君が、克雄君の友達の武司君?」
 声の主が誰だかすぐ分かった。ハッスル!とプリントされたTシャツを着た男性。間違いなく、絶倫帝王だ。
「お疲れさん!辛かったろうけど、気にしなくていい。こういう人種もいるということを憶えていればいい。これが君の人生の全てではないよ」
 そう微笑み、彼はパワー・ドリンク絶倫帝王を武司に手渡した。
「そうよ。二宮や安部みたいな人間、気にしないでね。今日で、これだけの人が集まったわ。今頃、学校のホームページや電話は大変でしょうね」
 克雄のサイトを見て、飛んで来た女子大生もいる。
 色んな世代の人達が性別、年齢を問わず、駆けつけて来た。武司はまるで奇跡を見ている気がした。
「これが、もうひとつの現実」
 どこからか、頭の中に飛び込んでくる声がした。武司は額で発声するみたいに意識を集中させた。
「僕、怖がらなくていいんだね、卑弥呼」
「ええ、そうよ。人は増えすぎたと言ったでしょう。あなたひとりが死ぬより、加害者が死んだほうが、人口が減るじゃない。今までは、苛められていた側が、自殺していた。それじゃあ、駄目なのよ。見ていて、校長をはじめ何人かが死ぬわ。あなたは、勝者よ」
「でも、何も相手の死を望んでいるわけじゃないし」
「人間に天敵はいないの。だから、こういう形ででも、数を減らすしかないのよ」
 武司は重い気持ちになった。
「でも、僕のせいで死んだことになる」
「そう?もし、克雄君に出逢わなければ、あなたは自殺に見せかけて、殺されていたのよ。葬式で安部も二宮も大笑いして。せいせいした、と。そうして、また他のターゲットを探すの。彼らは、悪魔、なの。改心などない、正真正銘の悪魔。善良な人間の天敵よ」
「僕以外の人も苛められる?」
「そう気にすることはないわ。時々、人間は法で改心させようとするけれど、何年かけても変わらない人種がいることに気付かないの。見抜けないのよ。悪魔には悪魔用の法が本当は必要だと言うのに」
 声は微かな溜息とともに消えた。
 次の日、学校は日本中の非難を全身に浴びた。数週間後、校長は樹海で自殺した。死者は一名だった。もしかしたら、自分だったかもしれない、という恐怖が武司を凍らせた。


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