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月の裏の住人9

     九
 地球温暖化のため、年々、台風の規模が大きくなっている。武司は、克雄の家の屋根の上から、近付きつつある台風の気配を感じながら夜空を眺める。克雄は武司苛め事件の全国的な広がりをネットで見ている。校長の死で、結末を迎えたように見えたが、葬式で安部が薄ら笑いをしていたこと、二宮をはじめとしたグループが武司の住む地区へ嫌がらせをしているなどという情報が流され、まだまだ静まりそうにない。ネットという場所は不思議なもので、人のもうひとつの側面を露わにするのである。校長の葬式での安部の笑みは、誰かによって撮られたムービーであったし、二宮の行為は卑劣だと彼の住所まで調べて流出していた。
 まだ続きそうな嵐に武司は、人間の色んな面を見た気がした。
「優しくもあり、怖くもある、それが人間。ひとりに二面性がある場合もある。ひとりが悪魔の場合もある」
 武司は独り言を言う。
「じゃあ、俺の母親は悪魔だな。いや、待てよ、お姉ちゃんには優しいから、良い面もあるのかな?」
 腕組みをして、研は考える。
「ところで、研とお姉ちゃんって、幾つ違い?」
「双子だよ。女の子だけが欲しかったって、いつも言うから」
「そうか・・・我が子なのにね」
 武司が溜息をつくと、卑弥呼が現れた。
「我が子など関係ないわ。親が子供を愛するとは限らないの。研君の母親は、悪魔よ。それもかなり質の悪い。人間は、思い込みがとても強いの。時として、それが人生の障害になることもある」
 研は目を見開いたまま、硬直していた。
「ど、どうしたんだい?研。ああ、初めてだったね、彼女、卑弥呼って言うんだ。ほらっ、教科書に載ってるだろ?見たことない?」
「見たことない。教科書は母親に全部焼かれたから」
「酷いことするな~」
「卑弥呼って、こ、これ、お、女なの?」
「えっ?何言ってるんだい?じゃあ、何に見えるんだ?」
「吊り上った大きな目、細い身体、長い手足、青白い肌、まるでスピルバーグの映画に出てくるエイリアンだ」
「何だって?」
 武司は驚いた顔で、卑弥呼を見た。そこには、確かに長い首の宇宙人らしきものがいた。
「それが、卑弥呼の本当の姿だよ。彼女は武司君の脳に女性に見えるように信号を送っていたんだ」
 克雄がにっこり微笑んで立っていた。
「彼女はね、う~ん、卑弥呼と呼ばせてもらうけど、月の裏側から来たんだよ」
 武司も研も目を丸くして聞いた。
 克雄は続ける。
「驚いただろうけど、やはり宇宙人っていたんだ、と思ったろ?突然現れると、パニックになるよね。だから、彼らはとても長い時間をかけて、僕ら人間にその存在をアピールし続けたんだ。UFOの目撃、宇宙人の映像や映画など、少しずつ。アメリカは、ケネディ暗殺後五十年の二〇一三年に宇宙人が実在すると公表するよ。ケネディは宇宙人とアメリカがコンタクトしていること、そして宇宙人の存在を暴露しようとして、殺されたんだ。アメリカは国家機密を五十年秘守するが、それを超えると公開することにしている。さらにケネディの次の大統領ジョンソンが二〇三九年まで暗殺事件の真相を明かさないという『ウォーレン報告書』の期限が切れた時、宇宙人は完全に姿を現すよ。勿論、今、目の前にいる卑弥呼のように、僕ら人間とコミュニケーションしている宇宙人は世界中にいるよ」
 研は、目玉が飛び出しそうに見開いて、卑弥呼を見た。
「何だか、スケールが大きすぎて、僕のお母さんのことなんて、どうでもよくなるよ」
「そうだな、二宮とか安部とかのレベルじゃないな」
 武司も卑弥呼の姿を凝視する。青白い身体の上を黄色と白の光の筋が流れている。時々、青い小さな光が点滅している。目は巨大な猫の目のようで、深い藍色である。
「もし、あなたたちが、卑弥呼でいいのなら、研君にもそのように見えるようにするけれど」
 卑弥呼は言った。
「今のままでは顔の表情がないから、統一するわね」
 そう言うと、目の前に歴史の教科書で見る通りの女性が現れた。
「これが、卑弥呼か」
 研はまじまじとまた見入る。
「研君、武司君、辛い目にあったわね。研君、耐えられないようなら、施設に行くといい。あの女がいつか心を改めてくれるなんて思わないでね。安部や二宮と同じ、罪の意識はないのだから。それから、何故、自分だけこんな目に会うのだろうとか、自分は他の人と違うのだろうとか、思わないで。あなた達は、自分を生きなさい。醜き者らに心脅かされる必要はないの」
 武司は、口をポカンと開けたまま、研を見る。研もまた武司を見る。
「正直、なんか常識が吹っ飛ぶよ」
 驚いた武司を見て、克雄は力説する。
「そうなんだ、そうなんだよ。人間は増えすぎた。人間の吐く息ですらも温暖化の原因になるんだ。これ以上増えてはいけない。いや、むしろ、減らさなきゃいけないんだ。僕も絶倫帝王も、罪のない心優しい人が亡くなるより、悪魔のような人間が減るべきだと思い、活動しているんだ。快楽殺人をやる奴らなんて、長々と裁判せずに、すぐに殺すべきなんだ。そうは思わないか?」
「でも、法律が・・・」
「指を咥えて見るだけなんて。犯罪者の写真、住所、電話番号は公開されるべきなんだよ。そうして、周りの人間から、冷笑されて、自ら命を断たせるんだ」
「でも、二宮や安部は自殺するかな?」
 武司は頭をひねる。
研も小首を傾げながら、問う。
「虐待している親やした親も公開されるの?」
「残念ながら、事件になった時だけなんだ。動物の扱いが劣悪なペット・ショップは、もう何軒も潰されたけどね。企業などは、見つかりやすいけど、内部告発や地域住民の情報もあるし、だけど、児童虐待は未然に防ぎにくいよね」
「そうなんだ・・・・」
 沈む研に、卑弥呼は微笑む。
「人間は気が付かないだけで、どんどん減らされていく。戦争や災害で。そうしないと、地球は完全に壊れる。もちろん、そうならないようになっているけど・・・アメリカと中国の闘いも始まるでしょう。日本では、中国のマイナスなイメージばかりが報道されるようになる。基地を置きやすくするために。多くの人が犠牲になる。命の危機に晒されて、初めて命の尊さを知るようになるでしょう。すべてを失うことで、気付くことも多いでしょう。二〇〇八年、中国が月へ有人で月面着陸するのを機に闘いは起こる。宇宙に関しては、アメリカはどの国にもひけをとりたくない。日本人は戦争に反対するはず。だから、反対しないように、北朝鮮問題があり、メディアでコントロールしているの。北方領土返還にならないのもそのため。日本は、常にアメリカにとって都合のいい国でなければならないの。アメリカ以外の大国と友好にならぬため、そのようになっている」
「よく分からないや。自分のことに精一杯で」
 研は戦争など想像もできない、といった風に頭を振る。怖いイメージが消え去るように。
「人間は、増えすぎないようになっているんだね」
 武司は、言う。
「そうね、日本は長寿大国になっているけど、エイズが蔓延している国の平均寿命は三十六歳と言われている。人口増加が、地球に負担だ、と見なされれば、哀しいけれど、人間が太刀打ちできない病が流行る。その病を克服すれば、また異なる病が見つかる。砂漠の緑地化などがあるけれど、人口増加を止められないのなら、人間が住める範囲を広げるべきね。私たちの登場で、世界はひとつになるわ。すべてのくだらない差別が本当にくだらないと分かる時が来る。キリスト教は子孫繁栄を阻止させるとして、同性愛を禁止しているけれど、それも自由になる。イエスは、すべての人に平等であった。途中で書き換えられたの。でも、時代が違いすぎる。人口増加を食い止めなければならないの。哀しい現実だけど、地震を起こす装置すらあるわ。死ぬことは怖いことじゃない、ただ旅立つだけだ、と歌われるのもそのため。人間は、動物と人を区別するけど、そうすることにより、何が起きたかしら?」
「毎年、多くの種が絶滅している」
 克雄は俯く。
「そうね、人間は特別では、ないの」



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