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月の裏の住人8

     八
 予想を遥かに超えた動きがあった。克雄から、今すぐ学校の部室に来て、とメールがあったのだ。
 サイトを見た人達数人が、部室を片付けている。ロッカーの汚物を処理し、悪戯書きが消されようとしていた。
「君が、克雄君の友達の武司君?」
 声の主が誰だかすぐ分かった。ハッスル!とプリントされたTシャツを着た男性。間違いなく、絶倫帝王だ。
「お疲れさん!辛かったろうけど、気にしなくていい。こういう人種もいるということを憶えていればいい。これが君の人生の全てではないよ」
 そう微笑み、彼はパワー・ドリンク絶倫帝王を武司に手渡した。
「そうよ。二宮や安部みたいな人間、気にしないでね。今日で、これだけの人が集まったわ。今頃、学校のホームページや電話は大変でしょうね」
 克雄のサイトを見て、飛んで来た女子大生もいる。
 色んな世代の人達が性別、年齢を問わず、駆けつけて来た。武司はまるで奇跡を見ている気がした。
「これが、もうひとつの現実」
 どこからか、頭の中に飛び込んでくる声がした。武司は額で発声するみたいに意識を集中させた。
「僕、怖がらなくていいんだね、卑弥呼」
「ええ、そうよ。人は増えすぎたと言ったでしょう。あなたひとりが死ぬより、加害者が死んだほうが、人口が減るじゃない。今までは、苛められていた側が、自殺していた。それじゃあ、駄目なのよ。見ていて、校長をはじめ何人かが死ぬわ。あなたは、勝者よ」
「でも、何も相手の死を望んでいるわけじゃないし」
「人間に天敵はいないの。だから、こういう形ででも、数を減らすしかないのよ」
 武司は重い気持ちになった。
「でも、僕のせいで死んだことになる」
「そう?もし、克雄君に出逢わなければ、あなたは自殺に見せかけて、殺されていたのよ。葬式で安部も二宮も大笑いして。せいせいした、と。そうして、また他のターゲットを探すの。彼らは、悪魔、なの。改心などない、正真正銘の悪魔。善良な人間の天敵よ」
「僕以外の人も苛められる?」
「そう気にすることはないわ。時々、人間は法で改心させようとするけれど、何年かけても変わらない人種がいることに気付かないの。見抜けないのよ。悪魔には悪魔用の法が本当は必要だと言うのに」
 声は微かな溜息とともに消えた。
 次の日、学校は日本中の非難を全身に浴びた。数週間後、校長は樹海で自殺した。死者は一名だった。もしかしたら、自分だったかもしれない、という恐怖が武司を凍らせた。

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