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月の裏の住人 11

     十一
 仄暗いトンネルには何かおぞましいものが無数にいるように感じられた。
「ねえ、本当に安部と二宮は現れるのかな?」
 研が恐る恐る口にした時、目の前に小さな人影が現れた。それは、研と同じ年くらいの女の子で、「私は十年も生きていない」と泣いた。体中、炎で焼かれたような声で「熱い。熱い」と言った。
 幽霊なの?と三人は顔を見合わせた。
 次に片目の老人が軍服姿で現れた。トンネルの上から宙吊りで。ブロックの隙間から手が伸びたり、苦悶の声が漏れた。出口が見えぬほど、光は遠くにあった。
「よう!」
 目の前に男が二人立っていた。安部と二宮だった。
「そこの小さな男の子には悪いが、武司、克雄、三人揃って死んでもらうぜ」
 手には赤いロープを持っていた。
 三人は凍りついた。安部と二宮を覆う黒い影が、暗闇の中にはっきりと見えたからだ。
「ああ、見えないの?二人とも・・・・ああ・・・二宮って男の子のほうの顔から、そのにきびから、蛇が出ている。白い小さな蛇が、たくさん」
 研は腰を抜かして、座り込んだ。
「そ、そ、それに、オジサンの顔はドンドン横に広がっている。ああ・・・黒い影が顔を横に引っ張っているんだ!ねえ、二人とも、見えないの?それに、ここまで来るのに幽霊を見なかったの?」
「幽霊?おいっ、坊主、よっぽど怖いんだな。そんなものいるか!ネズミすらいなかったぞ!」
 安部は馬鹿にするように高らかに笑った。二宮も人を殺せる喜びに満ち溢れていた。
 克雄は、武司と研にそっと耳打ちする。
「いいかい、卑弥呼は二人に会っても、無視して、そのまま進めと言った。このまま素通りするぞ」
 武司と研は、小さく頷いた。
 三人はそのまま歩いていった。遠くに人影が見えた。もしかしたら、卑弥呼かな?と研は小声で言った。
「おいっ!無視することはできないぞ!」
 安部は一歩踏み出そうとしたが、身体が動かない。二宮もどうように、硬直したまま、「関節が痛いっ!顔が焼けるように熱い!」と泣き叫んだ。
「お、おいっ!待て!な、なんで身体が動かないんだ!おいっ!助けろ!」
 安部は泣き叫ぶ。
 三人は、歩く。光の先に人影がある。そこを目指す。
「研?どうしたの?こんな壊れそうなトンネルで」
 心配そうに研の母親が立っていた。
「この中は涼しいはね。気持ちいい。あらっ、お友達も一緒なのね。さあ、あなたたちは、先に出て、私と研は中で少し涼むから」
 克雄に悪寒が走る。まさか、三人目は、研?
「研、急いで出よう!」
 克雄はそう言って、研の小さな手を握り、全速力で走る。武司も咄嗟に駆け出す。
「あらっ!なんで逃げるの?研!止まれ!この野郎!」
 断末魔の叫びのごとく、後ろで悲鳴が聞こえた。トンネルを抜けると同時に、トンネルが壊れ始めたのである。振り返ると、研の母親が、崩れ落ちる音を上回る奇声で叫んでいた。
「ちきしょう!夢で見たんだよ!ここで憎い研を殺す夢をねっ!あたしゃ、女だけが欲しかったんだ!貴様、よくも生まれてきやがったな~!」
 驚く研を武司は抱き締める。母親が見えないようにきつく抱き締めて。崩れ落ちる音の中に、安部や二宮の悲鳴も混じっていた。

 
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