文学の森

書庫 書き溜めた短編

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月の裏の住人

     一
 それは中学教師・安部が始めた些細な悪戯。どうせ安定した職業だもの、生徒が離れていくことは、ない。退屈な毎日に少し刺激が欲しかっただけ。
 夏休みの前、彼はネットである童話に出逢った。
『コトリバコ』
 二十センチ四方の木箱で、テトリスのブロックみたいな木が複雑に組み合わさってできている。その中には、子供のはらわたから絞った血と人差し指、臍の緒が入れられて、簡単には開かないようになっている。一八六〇年代後半に武器、お守りとして使用されていた。
 いわれのない迫害を受けていた人々は、己を守るために、コトリバコを作り、代々大切に持ち回りで保管していた。そのひとつが、武司の家にもあるのではないか、と安部はホームルームの時に言った。
「なんで、武司の家なの?」
 生徒たちは訊いた。
「それはな、武司に聞きな」
 それを聞いた武司は、コトリバコの存在は知らなかったが、迫害された、と教師が説明した部分に敏感に反応し、思わず、俯いてしまった。
 コトリバコの武器としての力を安部は面白そうに説明した。周囲の人を触れずとも、そこに置くだけで、もだえ苦しみながら殺してしまうのだ。徐々に内臓を引き千切り、血を吐かせて。迫害された者たちの恨みが、向けられた家は、女も子供も容赦なく殺される。殺された者たちは、この箱の意味を知らず、快く受け取るのだった。それは、とても美しい木箱だったので。
 安部は冗談だと笑って言うようにして、「俺の家に送ってくるなよ」と大袈裟に肩をすくめてみせた。彼は知っていた。その後、他の生徒らが、武司を特別な目で見て取り囲むのを。
 案の定、子供たちは放課後、武司を質問攻めにした。そうして、次の日には、明らかに異なる者を見るような目で武司を見つめた。
 その中に、二宮という子供がいた。暴力の中で育った彼は、日頃溜まったストレスの捌け口を毎日探していた。標的になるのは、太って動きが鈍い子、顔立ちを気にしている気の弱い女の子、痩せて力の無い子、毎日飽きることなく殴り、罵倒し、挨拶代わりに蹴った。だが、すぐに教師らに見つかり、職員室に呼び出され、叱られた。母親も呼び出され、厳重な注意をされた。家に帰れば、父親に殴られ、母親と姉に冷笑された。
 が、どうだろう。武司にいたっては、教師は怒らない。周りの連中も注意しない。二宮は、サウンドバッグを買ってもらったようで嬉しくて、奇声を上げた。
 まるで、自由を手にした猿のように。

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